
溺れる愛
第10章 距離
閑散とした海辺を少し前を歩く彼の背中を眺めながら歩く。
裸足で浅瀬を歩きながら、水がひんやりと心地よくて
沈みゆく夕陽が辺りをオレンジ色に染めてキラキラと光っていて
その絶景に目を奪われる。
『綺麗……海に来たのなんていつぶりだろ…』
ポツリと呟いた独り言も、押し寄せる波にさらわれていくようだ。
「……お前、ずっと思ってたけど」
『ん?なに?』
不意に前から小さな声が聞こえてきて、意識をそちらへ集中させる。
「姉ちゃんが気に入った女って、お前が初めてなんだ」
『…え、そうなの…?』
「あぁ…。だからお前はたぶん、そういう才能あるのかもな。勉強出来ない代わりに」
『…一言余計』
(でも…嬉しいな。気に入って貰えたんだ)
ついつい頬が緩んでしまうと、那津がこちらへ振り返る。
「芽依…何かあった?」
『……え?』
夕陽を背にした彼は、海の反射の光も手伝って
本当に綺麗で思わず息を呑むほどだ。
(何かって…何…?)
