溺れる愛
第2章 衝突
「俺の事、森山って呼ばないでくれる?下の名前でいいから」
『…名前知らない…』
「那津(なつ)」
(森山…那津…)
那津は、外したメガネをかけて、また作業を開始した。
「俺さ、仕事してんだわ。知ってる?レオンって官能作家」
『官能作家!?』
(なんか…少し前にニュースで聞いたような…
官能小説では珍しい200万部を越えるベストセラーだとか
女性人気がすごいとか…)
「そのレオンが俺。」
『……えぇ!?』
那津は驚く芽依を無視して淡々と話を続けた。
「まぁ趣味程度のもんなんだけどな。それがあの騒ぎなわけ。
でもいまいちインスピレーションが湧いてこない時があるんだよ。
そんな時にお前の盗撮現場を目撃して
コイツはいいカモになるって思った」
(カモって…)
「お前の利用価値は身体だけだ」
『利用価値って…。』
(そんな言い方酷い…。)
「俺の小説作りを手伝え。イメージが頭に湧いてくる様に、実践でな。」
『そ…そんなの出来るわけ』
「お前に拒否権は無い」
言い終わる前にバッサリと切り捨てられてしまった。
手元から目線だけをこちらに移して
那津は妖艶な瞳を揺らめかせながら
「楽しみだな…芽依?」
ゾクリと背筋に悪寒が走った。
冷や汗がさっきから止まらない。
手にも背中にも、嫌な汗を吹き出しまくっている。
「まぁでも、今日はとりあえずこれ終わらすか」
那津はまた視線を手元に移してから、立ちすくむ芽依に
「お前も早くやれよ。」
と冷たく言い放った。
(…どうしよう…どうしよう…)
バラされたらどうしよう
ネットとかに拡散されて…
みんなから白い目で見られて
憧れの先輩からも気持ち悪がられて
それより…那津に何を命令されるのか
芽依の心臓は焦りと不安で、バクバクと激しく脈打っていた。
こうして、那津と芽依の主従関係が始まった──…。