溺れる愛
第3章 喪失
───楽しみだな、芽依?───
この言葉が頭から離れない。
不安な気持ちを抱えながらも、芽依はいつも通り登校した。
ところが、その不安もどこ吹く風。
那津は話しかけてくるどころか、目すら合わせては来なかった。
(昨日のは…ただの冗談だったのかな…?)
自分の席より斜め二つ前に座る那津の背中をぼんやりと眺めながら、心の中で安堵の息を洩らした。
「あ、芽依ー!この前話した新しくオープンするカフェ、今日の放課後みんなで行こうよ!」
桃花が帰り支度をしながら大きな声で芽依に話しかけてくる。
『うん!行くー!』
(楽しみだったんだよね。よし!昨日の事は忘れて、今まで通り普通に過ごそう)
手早くバッグに荷物を詰め込んで、芽依は席を立った。
ふと、何気なく那津の席に目を向けると、そこにはもう那津はおらず、帰ってしまったようだ。
(帰ったんだ…。)
ホッとしながら、芽依は足取り軽く桃花達と一緒に教室を出た。