
溺れる愛
第14章 錯乱
「芽依…何かあった?」
並んで歩く長身をかがめて、芽依の顔を覗き込む俊哉。
『えっ……いえ、別に…』
(本当の事なんて…言えないよね…)
擦りむいた肘と膝は絆創膏を貼っていてもじんじんと鈍い痛みが続いていた。
その肘をそっと庇うように手で触れて少し俯く。
「そう…?なんか今日は元気がないっていうか…
俺でよかったら話訊くよ?」
『…いえ…本当に何も…』
こんなやりとりをしながら校門へ向かっていると
その門に見知った人が何人か立っている。
それは、今日呼び出されたあの女たちだった。
『…っ!』
思わず顔をひきつらせていると、女たちはこちらに気付いた瞬間
鬼の形相で叫びながら近づいてきた。
「俊哉!!どういうこと!?」
そう叫んだのは、“彼女”と呼ばれていた
あの泣き崩れた女だった。
ふと俊哉の顔を見ると、彼は少し呆気にとられた様な顔をしていて
芽依は黙ってまた前を向いた。
「ねぇ説明して。この子は何?」
女が擦りよる様に俊哉の腕を掴みながらキッと睨んで芽依を指さす。
またビクッと身体を震わせて、その迫力に芽依は目を合わせられずに俯いた。
すると俊哉は、聴いたこともないような低い声で
腕を振り払って女を遠ざけた。
「離せよ」
