
溺れる愛
第16章 冷雨
「はぁ…お前バカじゃねぇの」
那津は面倒くさそうにソファにもたれて
天井を仰ぎながら顔を片手で覆う。
『…だって……いつまでも騙してて…
苦しかったんだもん…』
これは紛れもなく本心だった。
だけど那津はそれを一蹴する。
「だから!俺とは身体だけ!心は彼氏って言っただろ?分けて考えろって」
『私そんな器用な事出来ない!』
「それをやれって言ってんだよ俺は!」
『は!?意味わかんない!
なんでそんなことしなきゃなんないの!?』
「それはっ……」
(え……?)
ここで初めて、那津が言葉を詰まらせた。
こんな事は初めてで芽依も勢いを失って戸惑ってしまう。
『それは……何よ』
「あー……うるせぇ。ちょっと黙れ」
『はぁ?何なのよもう…』
なんだか前にもこんな様なやり取りを
したことがあるなと思いながら
言われるがままに芽依は口を噤んだ。
そして、しばらくしてまた那津がポツリと話し出す。
「お前は…それで良かったのかよ」
『え…?』
「なんで…俺じゃなくて彼氏を切った」
『────っ!』
この言葉は実に的確な指摘で
どう答えたものか、芽依は押し黙ってしまった。
