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溺れる愛

第20章 近付けた喜びと陰




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『きゃっ…』



八年間ずっと持ち続けていた那津の携帯が
突然鳴りだした事に驚いて
持っていたマグカップを落としてしまいそうになった。


急いでテーブルの上に置いたそれに手を伸ばして画面を確認する。


やはりそこには知らない番号が…

だけど、那津に間違いない。


どうしよう。

上手くはなせるかしら…。


私は緊張しながらも、その電話をとった。



『…もしもし…』



すると、受話器からは

想像通りの、低くて、だけど安心する
那津の声が聞こえてきた。


「もしもし……」


『…うん……』


「…………」


『……………』



って!!

何話したらいいか全然わかんないよー!


電話での沈黙は正直つらい。


何か…何か話題を…!


「……あー…つか、何話したらいいか
全然わかんねぇ……」


『え?』


那津も…同じなんだね。



『そうだね…私も…。』


「つーか電話ってめんどくせぇな…
お前、今何してる」


『今?家に居るけど…』


「じゃあ、そっち行ってもいいか?」


『え!?今から?』


「そう…無理だったら別にいいけど」



無理だなんて!そんなの…!


『ううん…無理じゃない。

場所…言うね?』


「ああ…」


こうして私は、家の住所を教えて電話を切った。


どうしよう…何この展開ー!

心の準備が…


あ、掃除…ていうかお茶菓子とか…!


もー!こんな事になるなら普段から
もう少し気を遣うんだった…!


自分の女子力の無さに情けなくなりながらも
気持ちばかり掃除をしながら物の少ない部屋で助かったなどと考えてしまう。

女の子らしくしてれば良かったなぁ…。



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