溺れる愛
第4章 混沌
仕方なく重い身体を起こしてベッドからでる。
部屋の扉を開けると、ほんのり焼きたてのトーストとバターの香りが漂ってきた。
階段を降りてリビングに行くと、夜勤明けの母は少し眠そうに、でも芽依の大好きな笑顔で
「おはよう、芽依」
と笑いかけてくれた。
『お母さん……おはよ…』
(ダメ…泣きそう…)
母の顔を見るだけで、何とも言えない安堵感と罪悪感でいっぱいになる。
『先に顔洗ってくる』
それだけ言い残して急いで洗面所へ駆け込んだ。
流しに手をつきながら、口元を押さえて嗚咽を堪える。
ボロボロと流れる涙がポタポタと排水溝へ流れていく。
『ふ…ぅ…っ……』
仕事で疲れていて、早く眠りたいのを我慢して
こうして朝食を用意して、笑顔で迎えてくれる母の無条件の愛に涙が止まらなかった。
(ごめんね、お母さん…ごめん…)
何に謝っているのか自分でもわからなかったが、
母の笑顔を見てから罪悪感で蝕まれそうになる心が
余計に苦しかった。
その朝は、食欲なんて全く無かったけれど
母に心配をかける事が嫌で、なんとか完食した。
「気をつけてね。行ってらっしゃい!」
玄関先で笑顔で手を振る母に、また涙がこぼれそうになる。
『行ってきます』
精一杯の笑顔を作って、玄関の扉を開けた。