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溺れる愛

第25章 引き裂かれる二人




「あ、あと今日は絶対俺から離れないで」


いきなり真剣な表情でそう言われて、困惑してしまう。



『え…どうしてですか?』


「どうしても。約束して」



まるで怒っている様にも見えるその顔に、私は黙って首を縦に振った。



田所さんはたぶん、那津にとっても私にとっても悪い人じゃない。

ううん、むしろ応援してくれているような気がする…。

だからあの告白も、きっと何かある…。


私は漠然とそんな風に考えていた。



もうそろそろ開始時刻になろうという時には
既に押し寄せる来賓で、会場はごった返していた。


田所さんは、まだ私の腰に手を添えている。


この手を振り払わなければ那津に何を思われるか…

そんな事を考えてしまうけれど、もしかしたら何も思わないかも。
だって彼女ともうすぐ…そう思うと、田所さんの手を解こうとは思えなかった。



その辺りが、自分は狡い女だと思ってしまう。


菜々子ちゃんは有名俳優に声をかけられて
頬をほんのり染めながら会話に華を咲かせていて
それを私はぼんやり眺めていた。


すると、目の前に突然大柄なおじさんが
満面の笑みを浮かべて立ちはだかり

田所さんにガシッと抱きついて大きな声で言った。



「Hi!Mr.田所!!」



「Hi、Mr.マイク」



田所さんの手がごく自然に離れて
その大柄なおじさんの勢いにのまれるように
彼はズルズルと私から引き剥がされて行く。



「芽依、ごめん!
ちょっと待ってて?絶対ここから動かないで」


『はい、わかりました。
行ってらっしゃい』


慌てる田所さんに軽く手を振って送り出す。


やっぱり上に立つ人って大変なんだな…。


私は手持ち無沙汰になりながらしばらくその場に立ち尽くしていた。



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