溺れる愛
第4章 混沌
『……っ』
さっきからやけに心臓がうるさい。
もう何時間もこうされているような感覚になってきた。
夕暮れの教室に抱き合う男女。
はたから見ればカップル同然のこの光景。
でも、そんな事は全然気にならなくて、
むしろ間近に感じる那津の体温に
さっきから落ち着かない。
『…もう…その作戦には乗らない…』
────案外簡単だな────
その言葉が芽依の耳にハッキリと残っていて、
これもまた那津の芽依を手懐ける為の演技だと思っていた。
それでも那津は芽依を抱きしめたまま
「俺が泣かすのはいいけど、俺の知らない所で泣いてんのは気に入らない」
『何それ…意味わかんない』
(今泣いてたのだって、元はと言えばあんたのせいなのに…)
那津は芽依の首筋に顔をうずめて
「お前は俺の玩具だから。誰かに壊されるのは納得出来ない」
『…っ』
那津か言葉を発する度に、首筋に息がかかって
全身がゾクゾクする。
『何その自己中発言…。元はと言えばあんたのせいで…っぁ…』
「あぁ、そうだな」
チュッと首筋に吸い付かれて、思わず声を上げてしまう。
「俺が壊すまで、誰にも壊されんなよ」
『言ってる意味がわかんない…。』
そのままそっと首筋にうずめていた顔を上げて
その妖艶な瞳で、芽依を射抜く。
「わからなくていい」
その一言を最後に、ごく自然に距離が縮まって
優しく触れるだけのキスを交わした。
太陽の沈み掛ける優しいオレンジと、そよ風に揺られる木々の音だけが
広い教室を包んでいた。