
溺れる愛
第7章 勉強
『ねぇ!ちょっとこっち来て!』
小声で那津を手招きで呼び寄せると
那津は今ようやく芽依の存在に気付いた様で
少し面倒そうに
「なに」
と無愛想に返事をした。
『いいからちょっと!』
(そう言えばコイツ、めちゃくちゃ頭いいんだよね!?)
手をぶんぶんと振って手招きをして
ここに座れと自分の横の席をパシパシ叩く。
那津は少しだけ溜め息をついてから
芽依の気迫に根負けした様にその席についた。
「で、なに?」
机に肩肘をついて頬杖をしながら
横目で芽依を睨むように見る那津に
いつもならイラっとしそうな所だが
今はそんな事を言っている暇は無い。
『あんたさ、頭いいよね?お願い!勉強教えて!』
今朝の矢田と同様に手を合わせてお願いする。
もちろん快い返事を期待していた芽依だけれど
やはり那津はそんなに寛容では無く
「教えてやる代わりに、お前は俺に何してくれんの?」
と、あの意地悪な微笑。
(…今は、背に腹は変えられない!)
芽依は腹を括って
『何でもするから、お願い!』
と、やはり目先の事に夢中で
容易にこんな約束をしてしまう。
「ふーん。何でもしてくれるんだ?」
那津は少し妖しい瞳を眼鏡の奥で光らせながらも
芽依の持つプリントに目を配らせた。
その瞬間、芽依はハッとして
『えっと…あの、私に出来る範囲って意味でだよ…?』
焦って訂正するも、那津は聞く耳を持っておらず
「もう遅い」
と一言呟くだけだった。
