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第16章 ★行かないで

「……仕事の電話……?」

「……いや……」




美和の丸い瞳にじっと見つめられて、携帯をポケットにしまう。


4月でも夜風はまだ冷たい。


BARからコート無しで出てきた美和は少し寒そうで


俺は着ていたジャケットを脱いで、美和の肩に羽織った。




「何度も悪い、戻ろう」

「……でも
電話終わってないでしょ?」

「いや、いいんだ」




背中に手を回して、そのまま歩きだそうとしたけど


美和は足を止めたまま、そっと俺の腕に手を添えた。


何も言わずに、ただ真っ直ぐに俺の目を見つめる。




「…………」




………美和が何を言いたいかは分かってる。


滅多に自分から誘わない美和が、月曜以来ずっと俺に逢いたがっていて


今日は歌う日ではないけど、一緒に飲みたいと言った美和を、こうしてBARに連れてきた。



「………ヒメ」



人前でくっつくのを恥ずかしがる美和が


小さく俺の名を呼んで、そのまま胸に顔を埋める。




………電話をかけ続けてる相手が誰か、聞いてこないけど


震える手から、その不安が伝わってくるようだった。


ここ最近の自分の言動を思い返せば、当然か……

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