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恋してキスして抱きしめて

第13章 夏の嵐

並木道を進みながら、何度も何度も振り返って


手を振るその姿がやっと小さくなったので


俺は体を駅の方向に戻し、腕時計に目線を落とした。



「8時前……」



大学から会社までは、電車で20分くらいだから


始業まで、少しだけ時間に余裕があった。




………この時の俺が


駅に戻らず、別の方向に足を向けた……本当の理由を聞かれたのだとしたら


正直どう答えていいか分からねぇくらい


無意識のうちに、何かに動かされたとしか言いようがない。




真夏の太陽の日差しは、朝から容赦なく照りつけていて


大学のフェンス沿いに植えられた木々から、蝉の声がけたたましく鳴り響いている。




当時この道を手を繋いで歩いていた時と、何も変わっていなかった。




……だけど


いくら変わっていないからといって


あの頃と同じ季節だからといって




そのテラス席に



………彼女の姿が見えるなんて



そんな偶然があるわけねぇのに………

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