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顧みすれば

第9章 日常

「ところで佐々木。」

課長がコーヒーを飲みながら話しかける。

「お前入社当初重役秘書だったんだって?」

「そうですが」

「新入社員で重役秘書か。この間田辺常務と呑んだときに佐々木を重役秘書課に戻せないかと言われてさ。確かに佐々木の動きは事務のそれとは違うなと思ってたんだが、そうか、重役秘書だったのか。
しかも、お前の希望で企画部に来たんだって?」

ちょっといぶかしげに私を見た。
そこに、松田くんも参加してくる

「そうなんですよ。新入社員で重役秘書。佐々木狙いのやつ多かったですよ。」

「松田くん、過去形になってる。」

「お、わりい。今でも結構いるよ。」

「数減ってる感満載ですけど。」

ちょっとしらけた目で松田を見る。

「そのうちの一人が元カレですよ。私の仲立ちで社長に近づいて、なんとお嬢さんと結婚しちゃったんですから。私は婚カツに利用されただけですよ。
馬鹿馬鹿しくなって。それに、もっと視野を広げたかったので企画部に移動願い出しました。」

話題を振ってきた男たちはバツが悪そうだ。
世間では玉の輿を狙うのは女ばかりと思われがちだが、男だってしたたかだ。

「でも、あの男もバカですね。うちの会社はオーナー会社じゃないしもちろん世襲じゃない。社長が代われば前社長の娘婿なんて面倒なだけなのに。先を読めないのかな。ま、社長の娘と結婚して出世を目論むくらいだからたいした男じゃないんですけどね」

男たちはぎょっとして私を見る

「か、辛口だねぇ佐々木くん」

「すみません。元カレワーストなのでつい。」

男たちの笑顔が引きつっていた。

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