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顧みすれば

第25章 愛のかたち

「サエ 気分はいかが?」


マリアンヌさんはあれから時々私を見舞ってくれた。


いつも綺麗な花とともに現れる


とても美しく聡明なこの女性は


決して私の領域に踏み込むことはしなかった。


「サエ 

 スイスはずいぶん寒くなってきたわよ。

 空気が澄んでいて気持ちがいいわ

 
 こんなところに籠ってないで

 外の空気を吸いにいきましょう」


マリアンヌさんは私を車イスにのせて

よく散歩に連れ出してくれた。


スイスの山々は美しく色づき

日本の紅葉を思い出させた。


「アラブはいつも暑いから

 寒い場所が恋しくなるけど

 寒ければ寒いで、アラブが恋しくなるわね」

そういって微笑む


「ロイドがね、プロジェクトは来年再開することが決まったってあなたに伝えてほしいと言っていたわ」


そうか。なんだかずいぶん前の出来事のような気がする。


「そうですか。

 今度は問題が起きないといいですね」


その問題は自分なのに何だか他人事のように答えてしまった。


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