テキストサイズ

顧みすれば

第29章 失われた時を

「百合さん

 若女将が板についてきたみたいね」


私が微笑むと

百合の顔が少し曇った。


「お姉さま


 私のこと本当に恨んでない?」


「女将のこと?」


「そう だって 本当は

 卯月はお姉さまが継ぐはずだったのに…」


「まだそんなこと気にしてるの?


 確かに子供のころから

 卯月の女将になるものと思って

 育ってきたわ。


 でもそれは望んでいたわけではないの。


 就職して重役秘書になったのも

 コネクションを作るためだった。


 でもねあの時

 百合さんが女将になりたいと

 話してくれた時

 正直肩の荷が下りた気がした。


 自由になれると思ったわ」


百合の手を取り微笑む。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ