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顧みすれば

第29章 失われた時を

「女将になるのが嫌だったわけではないわ。

 でも就職して外の世界を見ていたら

 もっと、もっとと欲が出てしまって」


百合は私の顔を伺っている。 


「婿にはちょうど良いと思って

 付き合っていた彼も

 正直物足りなかったわ。


 だからね、

 百合さんが女将になりたいと

 言ってくれたことは

 私にとってはチャンスになった」


私は百合にウインクする。


「私は出世欲だけは強い彼を

 社長令嬢に押し付け

 重役秘書から

 もっと幅広い仕事ができる部署に異動した


 新しいプロジェクトに参加して

 とても充実してたわ。


 今はねいろいろあって

 進退を決めなきゃとは思ってるけど



 でもいまの私に卯月の女将になる


 気持ちはないの」

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