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顧みすれば

第29章 失われた時を

「でも、尚さんは…」


「大病院の息子じゃない?

 今どきどこの病院だって

 経営に苦戦してるわ。

 医者の息子の必要はないと思うの」



「でもお母様は許してくださるかしら」



「こんな商売してるんだもの

 男女の色恋はよくわかっているでしょ


 女将だって尚さんには

 とても目をかけているし


 ほかのお店に引き抜かれる前に

 百合さんと結婚してくれたほうが


 卯月のため


 なんじゃないかしら」


百合はうつむきながら微笑んだ。


「やっぱり私はお姉さまにはかなわない。


 卯月の女将は


 やっぱりお姉さまよ」



「もう、まだそんなこといって。


 私を自由にしてくれたんじゃなくて?


 百合さんには、百合さんの美しさがある。
 

 自信をお持ちなさい」

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