無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

普段少食な僕だけれど、今日はたくさん歩いたりしたからお腹が空いていた。
猫舌だからフーフーして食べていると、昭彦さんはそんな急がなくていいと小さく笑った。

久しぶりに一人じゃないご飯だった。
最近お母さんは仕事が忙しくてなかなか僕とゆっくりする暇がなかった。
それでなのか、とても美味しく感じた。

食べている時は何も話さず、麺をすする音などがするだけだった。



そして昭彦さんはもう食べ終わった。けれど、僕はまだ食べていた。

「お前学校俺んとこから間に合うの？」

突然昭彦さんは爪楊枝で歯をシーシーしながら僕に尋ねた。

「うん。ちょっと早起きになるけどね。ちょっとぐらいならいいやって。」

「俺たまに残業とかで帰れない時とかあっから合鍵また渡すわ。」

「うん。ありがとう。」

「あ、メアド教えて。あーお前らはLINEか。」

ポケットからスマートフォンを取り出す昭彦さん。

「あ、僕ケータイ持ってない…」

「マジで！？今時珍しくねェか？」

昭彦さんは目を見開いて、僕にそう言った。

「確かにみんな持ってるなぁ。でも僕いらないってお母さんに言ってたし。」

「じゃあどする？色々不便だし由美ちゃんに言おうか？」

「うん。じゃあそうする。」

そういって、僕は最後の一つの餃子を口に放り込んだ。

「…あいよっと。とりあえず送った。」

「わざわざごめんなさい。ありがとう。」

何から何まで申し訳ないな、と思いつつ僕はお冷を口に含む。

「いいって。さ、まずはお前の歯ブラシとか買いに行くか。」

「あ、持ってきたから大丈夫だよ」

「そか。んじゃ帰るか。」

僕の分までお金を払ってくれた昭彦さんに、きちんとお礼を言って僕たちはマンションに向かった。

車の中の静寂は、決して気まずくなんかなくて、逆に安心するような、そんな感じがした。
昭彦さんとなら大丈夫だ。僕は気づかれないようにそっと胸を撫で下ろした。