メビウス~無限∞回路
第5章 闇に在る存在
真っ青に血気が下がり倒した表情。声は声帯にも届かずヒューヒューという音しか鳴らなかった。
恐怖で凍てついた身体は、極度の恐怖に全身が鉛の塊にでも、変化したような錯覚に囚われていた。
固まってしまった身体は一歩も其処を動けない。男の残骸を貪る幾つモノ顔を女は見ていた。
その傍に在る生き物は、唸りを上げて、ゆったりと近寄ってくる。それはライオンなどよりも大きく狼みたいな姿を借りた生き物。
決定的に違うのは、その背中から見える力強そうな翼だった。
女を囲むように顔達は増えていく。同じ惨劇が繰り返されるのを、ソレの瞳は静かに見ていた。
哀れみも喜悦も浮かばない無機質な瞳は、闇の中に見えたたったひとつの光。
「やだぁ!こ…で!!」
女が悶え、泣き叫ぶ声を静かに耳を傾ける。さほど時間は置かず揺れる顔と手。
再び痛いほどの沈寂へ還るまで―――。
女が骸になり果てるのを見学していた姿は、月明かりの中でゆっくりと人の姿へと変化していく。
《此処は餌が豊富だ…》
くつくつと広がる笑いに家鳴りは同じように反応し、不気味な音をたてる。変わらない夜空の下で木霊していくのだが、それは人間には聞こえない。
「ねぇ…本当に此処?」
「そうだぜ! 楽しみだろう?」
「ちょっと怖い…」
「怖い? 知っているか? 此処で何人の人間が行方不明になっているか…?」
「え? 何、それ!? そんなの聞いてないよ!」
「死者を招く石だってさ、俺は死ぬのなんて怖くない」
「私は怖いわよ!」
新たな贄は、探さなくても向こうから近づいて来る。好奇心と怖いもの見たさ。それは此方から甘い蜜を垂らせば、群がる蟻のよう。
人型をした獣は、嬉しそうに楽しそうに舌なめずりをした。
そう、闇は闇を生み出していくのだ。
完
恐怖で凍てついた身体は、極度の恐怖に全身が鉛の塊にでも、変化したような錯覚に囚われていた。
固まってしまった身体は一歩も其処を動けない。男の残骸を貪る幾つモノ顔を女は見ていた。
その傍に在る生き物は、唸りを上げて、ゆったりと近寄ってくる。それはライオンなどよりも大きく狼みたいな姿を借りた生き物。
決定的に違うのは、その背中から見える力強そうな翼だった。
女を囲むように顔達は増えていく。同じ惨劇が繰り返されるのを、ソレの瞳は静かに見ていた。
哀れみも喜悦も浮かばない無機質な瞳は、闇の中に見えたたったひとつの光。
「やだぁ!こ…で!!」
女が悶え、泣き叫ぶ声を静かに耳を傾ける。さほど時間は置かず揺れる顔と手。
再び痛いほどの沈寂へ還るまで―――。
女が骸になり果てるのを見学していた姿は、月明かりの中でゆっくりと人の姿へと変化していく。
《此処は餌が豊富だ…》
くつくつと広がる笑いに家鳴りは同じように反応し、不気味な音をたてる。変わらない夜空の下で木霊していくのだが、それは人間には聞こえない。
「ねぇ…本当に此処?」
「そうだぜ! 楽しみだろう?」
「ちょっと怖い…」
「怖い? 知っているか? 此処で何人の人間が行方不明になっているか…?」
「え? 何、それ!? そんなの聞いてないよ!」
「死者を招く石だってさ、俺は死ぬのなんて怖くない」
「私は怖いわよ!」
新たな贄は、探さなくても向こうから近づいて来る。好奇心と怖いもの見たさ。それは此方から甘い蜜を垂らせば、群がる蟻のよう。
人型をした獣は、嬉しそうに楽しそうに舌なめずりをした。
そう、闇は闇を生み出していくのだ。
完