メビウス~無限∞回路
第8章 鳴き声(中編)
初夏になろうとする前に訪れる梅雨。…この時期が一番体調を崩しやすいのは女性だけではない。この衣奈(えな)神社の跡取りであり、幾多の神をその身に降ろすことが許された神楽も、天照の眷属である故か夜と雨には弱い所がある。太陽を隠した雲がどんよりと雨の気配を運んでる最中、箒を片手に空を見上げた。
「困りましたね…天之水分神(あめのみくまり)様は、相性があまり良くないんですよねー」
依頼が今のところは無いので、ノンビリと禊をして修行に励んでいる訳だが。どうも胸騒ぎがする。視線を神木に移し、瞳を伏せて意識を透明化しながら心で呼びかける。しかし呼びかけた相手は何かに夢中になっているのか、返答を返してくる気配は毛頭ないらしい。コメカミに青筋を浮かべそうなほど剣呑な空気を放ち、神楽は天照への祝詞を唱え出す。
「止めろ!」
「……だって、返答しない尊が悪いんですよ? 神なら、神らしく社に留まりなさい」
「ヤダ。姉ちゃんが謝って来るまで帰らない」
「いやいや…私は留まれと言っているのであって、帰れとは一言も言ってませんよ」
ぷぅっと頬を膨らませる尊。ーー正体は素戔鳴である。三貴神のひとりである海原を司る神様である。気性が荒い末っ子で、我が儘な性格は度々大きな嵐を呼び起こす。甘えたで母に会いたいと黄泉比良坂へ行きたいと言って、父神に怒られたりしたぐらい。これで図体が大きかったら目も当てられないのだが、尊は比較的に小さく見方によっては小学生や中学生に間違われることもあるぐらいだ。…もっとも神である尊には年齢というのはあまり関係がないことは神楽も付き合いで知っている。突風に乗って最初この神社に顕現した時は、何が起こったのかと目を白黒したのも今ではいい思い出だ。
「とりあえずなんだよ」
「掃除手伝って下さい」
「は? え? 俺って神様なんだけど?」
「働かざるもの食うべからず…外での祓い仕事がないんですから、掃き掃除くらいして下さい…それともご飯いりませんか?」
「困りましたね…天之水分神(あめのみくまり)様は、相性があまり良くないんですよねー」
依頼が今のところは無いので、ノンビリと禊をして修行に励んでいる訳だが。どうも胸騒ぎがする。視線を神木に移し、瞳を伏せて意識を透明化しながら心で呼びかける。しかし呼びかけた相手は何かに夢中になっているのか、返答を返してくる気配は毛頭ないらしい。コメカミに青筋を浮かべそうなほど剣呑な空気を放ち、神楽は天照への祝詞を唱え出す。
「止めろ!」
「……だって、返答しない尊が悪いんですよ? 神なら、神らしく社に留まりなさい」
「ヤダ。姉ちゃんが謝って来るまで帰らない」
「いやいや…私は留まれと言っているのであって、帰れとは一言も言ってませんよ」
ぷぅっと頬を膨らませる尊。ーー正体は素戔鳴である。三貴神のひとりである海原を司る神様である。気性が荒い末っ子で、我が儘な性格は度々大きな嵐を呼び起こす。甘えたで母に会いたいと黄泉比良坂へ行きたいと言って、父神に怒られたりしたぐらい。これで図体が大きかったら目も当てられないのだが、尊は比較的に小さく見方によっては小学生や中学生に間違われることもあるぐらいだ。…もっとも神である尊には年齢というのはあまり関係がないことは神楽も付き合いで知っている。突風に乗って最初この神社に顕現した時は、何が起こったのかと目を白黒したのも今ではいい思い出だ。
「とりあえずなんだよ」
「掃除手伝って下さい」
「は? え? 俺って神様なんだけど?」
「働かざるもの食うべからず…外での祓い仕事がないんですから、掃き掃除くらいして下さい…それともご飯いりませんか?」