妖魔滅伝・団右衛門!
第5章 悠久と団右衛門
猫又・トラの首に巻かれた赤い紐には、銀色の鈴がついている。団右衛門は鈴を付けたトラを嘉明の眼前に突き出すと、自慢げに語った。
「どうよ、可愛いだろ!? この鈴、封魔の札の代わりなんだぞ」
それは、京へ向かうため旅立つ日の朝だった。団右衛門は嘉明に精を与えた後、ご褒美とばかりにトラを差し出したのだ。
嘉明は無言のままで表情一つ変えないが、まばたきもせずにずっとトラを見つめている。口にしなくとも、気に入っているのは明らかだった。
「札を貼るだけじゃ不慮の事故が怖いからな。しかし! こうして首に巻いてりゃ誤って引っ剥がす危険もない訳だ。それに」
団右衛門は部屋の隅まで行ってトラを下ろし、急いで嘉明の元に戻るとトラに呼び掛ける。
「トラやー、トラやーい」
名前を呼ばれたトラは、二股の尻尾を機嫌良く振って駆け寄ってくる。歩くたびちりんちりんと鳴る鈴は、軽快で澄んだ音だった。
「な、可愛いだろ? 猫が苦手な奴は鈴の音がしたら逃げりゃいいし、一石三鳥! おっと、褒める必要はないぞ、その代わり、もっとやらせてくれれば」