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妖魔滅伝・団右衛門!

第5章 悠久と団右衛門

 
「つまりこの鈴を外せば、トラは虎になるのか。戻す時はまた首に巻けばいいのか? しかし、巻くにしても紐の長さが足りないな」

 嘉明は団右衛門の軽口を無視し、トラを抱き上げじっくりと観察する。

「……はいはい、あんたが難攻不落なのは分かってますよ。それは鈴を体のどこかに触れさせれば元に戻るから、小さくなった後首に巻いてくれ。万が一オレがいない時危なくなったら、すぐ妖虎化させるんだぞ」

 すると嘉明はトラを床に戻すと、唇を尖らせたままの団右衛門に手を伸ばす。そして頭を撫で回すと、微笑んで口を開いた。

「見事なものだな、褒めてつかわす」

 不意打ちの善意に、団右衛門は息を忘れ固まってしまう。赤くなったまま動かない団右衛門は予想外だったのか、嘉明は首を傾げ団右衛門の顔を覗き込んだ。

「なんだ、抱かせないならせめて褒めろと言うつもりではなかったのか? せっかく希望通り褒めてやったのに」

 確かに団右衛門はすぐにもそうごねるつもりでいたが、嘉明が先回りして褒めるとは考えていなかったのだ。すっかり見抜かれた事がむず痒く、団右衛門はますます口を尖らせた。
 

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