妖魔滅伝・団右衛門!
第5章 悠久と団右衛門
「いや、驚かせてすまんかった。余の幼い頃、お前によく似た子がいての。思い出してしまったんじゃ」
「僕に?」
「ああ。八千代という名で、余の故郷の辺りで一番の力を持つ商家の子だった。気さくで優しい子でな、余はよくその子に遊んでもらった記憶がある」
団右衛門は、その話に引っかかりを覚える。そして八千代の隣に並ぶと、一礼して笑顔を作った。
「失礼。私は八千代の兄で、団右衛門と申します。関白様の美しい記憶に愚弟と似た者があるとは、光栄の極み。お目にかけていただけるだけでなくその手を差し延べてくださるなど、生涯の誇りです。弟に代わり、感謝を申し上げます」
「兄、か。あまり似てない兄弟だの」
「腹違いの兄弟ですので……しかし関白様の知る方と名前まで同じとは、ただならぬ縁を感じます。その方は、今は何をなさっているのですか?」
すると秀吉は顔を曇らせ、頬を掻く。
「あー、悪い話だが、その子はもうこの世にはいないんじゃ。ある日突然行方知れずになってしまって、そのまま帰ってこんかった。山賊にさらわれたとか、神隠しにあったとか言われておってな……」