妖魔滅伝・団右衛門!
第5章 悠久と団右衛門
その不吉な話に声を失う二人に、秀吉は慌てて首を振り取り繕った。
「いや、でもこちらの八千代はそんな事にはなるまい。孫六がついておるのだからな! きっとお前の弟は、八千代の生まれ変わりじゃ。今度こそ人生を全うするため、仏が慈悲をくださったのだ」
「ええ、関白様の仰る通りでしょう。この八千代、関白様のためにお仕えする人生を心より望んでおります。これからもその方の分まで、兄弟共に力を尽くす所存です」
「そうか、頼りにしておるぞ。では孫六、明日、頼んだからな」
秀吉は団右衛門の言葉に安堵の溜め息を吐くと、和やかな空気のまま去っていく。団右衛門はその背中を見送りながら、考えを巡らせていた。
(秀吉様の生まれ故郷に、八千代に似た子……しかも、行方知れずか)
団右衛門の胸が、妙にざわつく。しかし頭の奥で不意に浮かんだ考えを、表に出して形にする事を団右衛門は無意識で拒否していた。
淀んだ靄のまま、団右衛門は密かに札を取り出す。それを皆に気付かれないよう素早く空に放つと、何事もなかったかのように仕事へと頭を切り替えた。
つづく