妖魔滅伝・団右衛門!
第6章 妖魔滅伝・嘉明!
「それだけ聞ければ充分よ」
部屋から微かに漏れてくる、八千代の啜り泣くような声。誰も通らない事を見越して鳴いているが、仮に誰かが通りがかったところで、泣き虫の八千代が嘉明に怒られ泣いているのだとしか思わなかっただろう。しかし、その声は、淫靡に浸る艶の声。嘉明以外に考える事などない八千代からは考えられない、獣の声だった。
一方、嘉明を追い掛けた団右衛門は、嘉明の寝所で愛おしい瞳に厳しく睨まれていた。
「団、私はお前に、人の処罰を取り決める権限など与えた覚えはないぞ」
「いや、オレだって本気で八千代を切腹させる気はなかったぞ? 反応を確かめたかっただけだ」
「たとえ偽りだとしても、許される事と許されない事がある。お前は退魔師だ。妖魔を打ち払う事は一任するが、敵と決まっていない人の命を弄ぶ道理はない」
嘉明は静かに語るが、その声には怒りが滲んでいる。家臣が嘉明にとってどれだけ大事なものかは団右衛門も承知しているが、しかし今日ばかりは引けなかった。
「それも分かってる。しかし嘉明、あいつがおかしいとは思わないか? この前再会した弟を、庇いもせず切腹させようとしたんだぞ。普通あんな時は、兄が切腹するもんだろ!?」