妖魔滅伝・団右衛門!
第6章 妖魔滅伝・嘉明!
だが、嘉明は答えない。団右衛門の話を、聞くつもりはないのだろう。目の前にいるのに無視されるような扱いに、団右衛門は床を叩き声を荒げた。
「だから、本気じゃなかったって言ってるだろ! こんな方便すら許せなかったら、どうやって鬼を倒す気なんだよ!」
「……今日はもう遅い、お前ももう下がれ」
「嘉明!」
一切受け入れる気のない嘉明に、団右衛門は頭をかきむしり、怒りを足音に乗せてどかどかと去っていく。嘉明は壊れる勢いで閉められた襖の音に小さく肩を震わせると、長い溜め息を吐いた。
(……私は何をやっているんだ。怒らせるつもりじゃない、諭すつもりだったというのに)
感情的になって団右衛門に不安を抱かせたのは、ついこの間の事である。敵相手に同じ徹は踏まなくとも、味方となると難しい。明日の朝謝ろうと決めて、嘉明は床についた。
だが、次の日の朝嘉明の耳に入ったのは、「団右衛門が嘉明への不満を喚き散らして出て行った」という信じがたい報告だった。
京の町に消えた団右衛門。嘉明に残されたのは、疑惑の消えない悠久と、いつ迫るともしれない鬼への危機だけである。嘉明の苦難は、まだ終わりそうもなかった。
つづく