妖魔滅伝・団右衛門!
第1章 夜討ちの退魔師団右衛門
団右衛門の足が淡路へ向かったのは、匂いがしたからだ。己を誇示し、実力を示し――そして、禍々しい匂い。だが足を踏み入れた淡路の地は、少し前まで長宗我部元親と豊臣秀吉が覇権争いを繰り広げていたとは思えない程、活気に溢れ栄えていた。
「おっかしーな、オレの鼻が狂ったか?」
秀吉が勝利した淡路の地は、現在豊臣系の武士達が治めている。この志智も、また同じ。煤けた黒の着流し一枚に刀だけ下げた、いかにもな牢人の団右衛門は、街並みから浮いていた。戦の傷跡もなくこうして栄えているのは、都の方からやってきた近代的な統治を知る者達のおかげなのかもしれない。
しかし団右衛門にとって、そんな事は二の次である。自分が嗅ぎ付けた匂いとかけ離れている事だけが、ただ疑問だった。
と、鼻をくすぐるのは、脳を目覚めさせる酒精の匂い。団右衛門が連なる店を覗くと、そこは酒屋だった。
「――狂ってねぇよな、鼻」
酒は団右衛門の頭を一気に浮かれさせ、足は勝手に酒屋へと向かう。この地が平和であるなら、やる事は一つ。平和を祝した酒盛りだ。そう理由を付けて、団右衛門は己の若さに任せ門をくぐろうとした。