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妖魔滅伝・団右衛門!

第1章 夜討ちの退魔師団右衛門

 
 その時、通りに町人の声が響いた。

「皆、殿がお通りになられるぞ!」

 すると歩いていた者達は端に避け、現れる殿に備える。そしてそれからすぐに、馬の足音が複数聞こえ始めた。

「殿……?」

 酒屋の入り口に突っ立ったまま、団右衛門は凛々しい瞳を足音のする方に向ける。すると殿を見物しようと出てきた酒屋の主人が、呆けたように見える団右衛門に声を掛けた。

「兄さん、驚くなよ。新しい殿様は、この世に二人といない美丈夫だ。うちの嫁も娘も、夢中になって仕方ねぇ」

 だが、団右衛門は応える事なく、まばたきもせずに通りを見つめている。団右衛門の風体は、どこから見ても牢人。あわよくば団右衛門は殿に仕えたいと考えているのでは、と結論付けた酒屋の主人は、それきり声を掛けるのをやめた。

 通りの向こうから、段々と大きくなっていく蹄の軽快な音。そしてとうとう、その姿が目に入るまで迫る。列をなした武士達の中、誰が殿なのか。誰かに聞かずとも、団右衛門はすぐに分かった。

 豪奢ではないが、質実で気品ある着物。手綱を握る手は、細いが力強く見える。目を引くのは、少し気怠そうではあるが、整った顔立ち――そして馬の尻尾のごとく揺れる艶やかな黒髪は、しっかりと頭の高い位置で一つに結われていた。
 

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