妖魔滅伝・団右衛門!
第7章 さすらい団右衛門
「それがしも……」
「お前の世話する馬は、いつも清潔で目が輝いているな。そのような馬がいるからこそ、私は安心して戦に出られるのだ。馬番を下働きと侮る者もいるが、馬は戦場で武器となり盾となる。お前が普段働いてくれる事が、私の命を守ってくれているのだぞ。刀を取らずとも、お前は私と共に戦っているのだ」
太助はうつむき、腕で目を雑にこする。再び顔を上げた太助の目は、赤く潤んでいた。
「それがし、これからも日々馬を大事に扱います! 殿のため、それがしの戦いを完璧にこなしてみせまする!」
嘉明が頷くと、太助は瞳だけでなく顔も真っ赤にして喜ぶ。この場にいた、誰しもが気付いていた。どこか足りない太助が、今成長するきっかけを得たのだと。
嘉明の立ち去る背中が見えなくなるまで、太助は見送っていた。そんな太助の背中を眺める悠久が、腹の底に一つの決意を固めた事に気づく者は、どこにもいなかった。
「それでは、わしも八千代を迎えに行きますか。太助殿、しばしわしは抜けますので、馬の事を頼みますぞ」
悠久は愛想良く厩を出て行き、一人城の外、八千代の謹慎する屋敷へ向かう。「解放」の時を待ちきれず、気配をだだ漏らしにして歩いていった。