テキストサイズ

妖魔滅伝・団右衛門!

第8章 八千代の想い

 
 痛みを訴えるにも、口はまともに動かない。鼓動が異常なまでに早いのに、指先は氷のように冷たかった。

(私は……死ぬのか)

 意識が遠のく中、脳裏から現れたのは団右衛門の顔。思い浮かべると、苦痛や恐怖の類は心から消えていた。

(……まあ、いい。私が死ねば、皆鬼の恐怖から解放される。最後にあいつと話せただけで、私は幸せだった)

 嘉明は、毒とは違う力に導かれるまま、目を閉じる。同時に嘉明の体は、八代に揺さぶられたまま鼓動を止めた。

 八代が異変に気付いたのは、嘉明が達したかどうか確かめようと下腹部に手を伸ばした時だった。そこは絶頂どころか、固さを失い垂れていたのだ。

「嘉明……?」

 いつの間にか声も途切れ、嘉明は指先すら動かさなくなっている。八代は血色を失い始めた顔を見て、ようやく異常事態に気がついた。

「どうした、嘉明! 返事をしろ!」

 八代は己を抜き、嘉明を仰向けに寝かせて頬を叩く。しかしすでに、嘉明は息をしていなかった。

 そしてその瞬間、殺したはずの一二三が目を見開き飛び起きる。そして混乱する八代を突き飛ばし、嘉明に両手を向けた。



つづく


 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ