妖魔滅伝・団右衛門!
第2章 嘘つき団右衛門
嘉明の小さい唇から漏れるのは、荒い吐息。寝巻きは汗でぐっしょりと濡れ、白い肌は赤く染まる。鬼に襲われてから三日――嘉明はずっと高熱に犯され、寝込んでいた。
(鬼の毒に対する耐性が弱いんだろうな。普通なら、次の日には症状も消えるはずなんだが)
鬼の毒で苦しんでいるのだから、医者に何か出来る訳ではない。団右衛門は自ら毒抜きを買って出て、人払いしていた。
鬼の毒は体の力を奪うと同時に、感覚を尖らせる作用を持つ。そして強制的に高められた感覚は、体に負担をかけて二次被害を起こす。全てに対し過敏になった体は、普段なら跳ね退ける病や傷なども通してしまうのだ。風邪や擦り傷でも命を落とす程、危険な状態だった。
「団さん、お水、汲んできました」
すると障子越しに、稚児の跡が残る可愛らしい声が響く。あの日団右衛門と共に鬼から逃れた小姓、八千代だった。
「助かる。入ってくれ」
八千代は己がきっかけで嘉明を危険に晒した事を深く恥じ、看病を団右衛門に願い出たのだ。団右衛門も八千代には気になる点があったので、観察ついでにそれを認めていた。