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闇夜に輝く

第13章 伝説のスペシャリスト


増田さんがそこまで他人を褒めるなんて珍しい。
海斗はその吉川という人物が気になった。

「そんな人がいたんですね具体的にどう凄かったんですか?」

増田さんは海斗が食いついてきたことに満足げな顔をすると、当時を思い出しながら話し始めた。

「まずな、営業前の準備が完璧なんだよ。細かいところまで効率化するんだ。例えば冷蔵庫の中のものをきっちり整理して全部すぐ出せるように保管するとか、ストッカーに張り付く氷は毎日こまめに落として常に取り出しやすくしているし、営業前に店内を隅々まで確認するんだ。小さい電球の切れやちょっとした備品の破損も一番早く見つけてたな。ボトルの管理も完璧だった。客の名前、指名キャスト、来店日、どの位飲んだかをきっちり記録していたよ」

「徹底的にやるんですね」

「あいつ曰く、準備段階でしっかり整理しておくと、自然と頭の中も整理出来ると言っていた。すると営業中も同時進行で物事を考えやすくなるらしいんだ。だから優先順位の判断が早い。先を読んでトラブルを回避できる、トラブルが予想できる、その対策をどうするってところまで瞬時に考えられるんだ」

「はい。その重要性は何となく分かる気がします」

「それにな、吉川はボトルを開ける時の所作、トレンチの持ち方も綺麗だった。流れるような滑らかさで動けるんだ。その辺のシティホテルのウエイターなんかよりも立ち振る舞いが美しかったなぁ」

「けど何でそんなに仕事ができるのにずっとホール係のボーイだったんですか?」

「ああ、致命的な欠点があってなぁ。…会話と女が苦手だったんだよ」

そしてまた遠い目をする。

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