闇夜に輝く
第13章 伝説のスペシャリスト
この日も西野さんが出て行った後、フロアの席に座り買い出しリストの確認をしていると、隣で新聞を読んでいた増田店長が話しかけてきた。
「なぁ海斗、ホール業務で一人前になるってのはどういう事だと思う?」
「一人前、ですか。えっと、忙しい時間帯でも業務が滞りなく回る様に動ける事ですかね」
「じゃぁその為には何が必要なんだ?」
「さっきの西野さんの話のように一度にたくさん運んだりして効率良く動く事ですか?」
増田さんは少し難しい表情をする。
「まぁ、それも大事なことなんだけどな。俺はトレンチ捌きに慣れる前に役職が上がったから物を運ぶのは下手なんだ。アイスペールなんて2個ずつしか運べないよ。そんな過去の俺はホール係を見下していた。トレンチが上手く扱えるってことは、それだけ下っ端仕事が長いだけだろって。けどな…」
そこで増田さんは遠い目をする。何かを思い出すように。
そしてまたゆっくりと話し始めた。
「何年か前に、吉川というホールのスペシャリストと呼ばれた奴がいた。俺は当時、飛ぶ鳥を落とす勢いで店長までなり上がり、ある街で吉川のいる店の店長を任された。そこでそいつの働きを見て衝撃を受けたよ。いまだかつてあんなに凄いやつは会ったことがない。なんせ街中に吉川の働きぶりの評判が知れ渡っていた。どうしてかというと、その街の中で定期的に場所を移るキャストって多いだろ。そのキャスト達を通じて吉川の評判が広まっていったんだ。ただのボーイなのに引き抜きの話もあったりな。けど、吉川の実家の父親が病気でな。社長が父親の治療費を立て替えたりしてあげていたらしいが、最終的に実家の家業を継ぐことになって辞めたんだ」
「なぁ海斗、ホール業務で一人前になるってのはどういう事だと思う?」
「一人前、ですか。えっと、忙しい時間帯でも業務が滞りなく回る様に動ける事ですかね」
「じゃぁその為には何が必要なんだ?」
「さっきの西野さんの話のように一度にたくさん運んだりして効率良く動く事ですか?」
増田さんは少し難しい表情をする。
「まぁ、それも大事なことなんだけどな。俺はトレンチ捌きに慣れる前に役職が上がったから物を運ぶのは下手なんだ。アイスペールなんて2個ずつしか運べないよ。そんな過去の俺はホール係を見下していた。トレンチが上手く扱えるってことは、それだけ下っ端仕事が長いだけだろって。けどな…」
そこで増田さんは遠い目をする。何かを思い出すように。
そしてまたゆっくりと話し始めた。
「何年か前に、吉川というホールのスペシャリストと呼ばれた奴がいた。俺は当時、飛ぶ鳥を落とす勢いで店長までなり上がり、ある街で吉川のいる店の店長を任された。そこでそいつの働きを見て衝撃を受けたよ。いまだかつてあんなに凄いやつは会ったことがない。なんせ街中に吉川の働きぶりの評判が知れ渡っていた。どうしてかというと、その街の中で定期的に場所を移るキャストって多いだろ。そのキャスト達を通じて吉川の評判が広まっていったんだ。ただのボーイなのに引き抜きの話もあったりな。けど、吉川の実家の父親が病気でな。社長が父親の治療費を立て替えたりしてあげていたらしいが、最終的に実家の家業を継ぐことになって辞めたんだ」