闇夜に輝く
第4章 初めてのフロント業務
「そんなに濡れると風邪ひくよ……」
海斗の差し出した傘で不意に濡れなくなった事に気づいたその子が立ち止まり、顔を上げた。
ボーっとした表情で海斗を見つめてくる。
「どうしたの?」
その時、海斗はどんな顔をしていたのか自分でも分からなかった。
きっといつもの様につまらなそうな顔だったのかもしれないし、客と接するときの乾いた笑顔だったのかもしれない。
でもその子に警戒心を与えない顔をしていたんだと思う。
なぜなら海斗の胸にこつんと顔をうずめる様な形でその子が寄りかかってきたから。
予想外のことに何秒か固まってしまった。
降りしきる雨の中、一つの傘に収まる二人が何か違う世界にいるように感じる。
海斗はゆっくりとした動作で、その子の濡れた髪を撫でた。
ふと、いつも境内にいる猫を思い出した。
そういえばあの猫と初めて会ったときも雨が降っていて、あいつは傷だらけだった。
きっとこの子の姿があの猫と重なって見えたんだろう。
そんな風に思っているとその子が顔をあげた。
そして小さくつぶやく。
「……すみません」
「いや、気にしないで……」
言葉少なめな会話。
お互いが不思議な状況にそれ以上どうしていいかわからなかった。
「とりあえず、ここじゃ濡れるから、移動する?」
「……はい」
そうして二人は店のビルのエントランスに移動した。