闇夜に輝く
第5章 流れのままに
「前田咲です」
その子の方からそう名乗ってくれて、店長はまた咲さんの方を向いた。
「お、咲ちゃんね。よろしく。あとで行くから座ってて」
そう促され、海斗と咲さんはフロアへ出る。
音楽に混じり、客席から会話が聞こえてくる。
海斗は使用優先度の低い客席にその子を案内する。
途中の席では待機のキャスト達がいて、またその先の席では坂東主任という先輩の黒服とその担当キャストの楓さんがミーティングをしていた。
少しケンカ腰のような会話だったが、海斗が女の子を連れてきたことに驚いたのか、会話が止まり珍しいものでも見る様な目でこちらを見てきた。
その後、海斗達の方を見ながらそれまでの会話が嘘のようにひそひそと話しているのがちらりと見えた。
そんな視線を気にしつつも、咲さんを席へ付かせ待つように言うと、海斗はキッチンへ冷たいお茶を作りにいった。
お茶をグラスに注いでいると、増田店長が書類を持ってキッチンへきた。
「おい、めちゃめちゃイイ子じゃないか。大当たりだな。時々、海斗ちゃんには驚かされるけど、今日もやってくれたな」
そう言って海斗の肩を叩く。
「ちょ、こぼれますって。それにそこまでイイですかね?地味な印象しかないんですけど」
「バカ!あんな素材のイイ子はなかなかいないぞ。お前、うちのキャストのすっぴん見たことないのか?やり方次第であの子は大化けするぞ」
「そうなんですか。でもこの仕事未経験って言ってましたけど」
「それもプラスだよ。変に慣れてると、ラクしたがるのとか、時給ばっかり気にするやつとかが多いからな。そうだ、どうしても本入店させたいからお前も一緒に面接の席にいろよ」
「え、俺もですか?フロントは……」
「んなもん、手が空き次第ほかの奴にやらせるし、今日はたいして客も入らないから気にするな。それより海斗ちゃんのスカウト第一号だな。おめでとう」
正直、面倒くさいことになったと思った。
スカウトなんてした覚えもないし。勝手に働きたいと言い出しただけなのに。
海斗はちゃん付けするくらい変にテンションの上がっている店長との温度差にため息が出そうになる。
フロントでボーっとしてる方がどんなによかったか。心底そう思っていた。
しかし、逆らえるほど偉くもないので結局海斗も面接に加わることとなった。