闇夜に輝く
第5章 流れのままに
『増田さん取れますか?』
『どうした?何かトラブルか?』
客が来店した場合は『店内取れますか』と聞くところを、増田店長を名指して呼びかけたことに不審がられてしまった。
『いえ、今から女の子の面接ってできますか?』
『は?お前フロントにいたんじゃないの?スカウトしに行ってたの?』
『いえ、フロントにいたんですけど、店前で声かけた女の子が面接したいって……』
『おーおー、やるなぁ。海斗くん。よし連れてこい。お前も一緒に上がってきていいぞ』
『あ、はいわかりました。行きます』
普段は海斗を呼び捨てにする店長が、くん付けで呼んでいた。
その機嫌の良さにかえって気味悪く感じる海斗。
黙ってエレベーター待ちをしている最中、女の子を見ながら思う。
(こんなずぶ濡れの子を連れてって大丈夫かな)
少し不安になりつつもその子と一緒にエレベーターを上がっていった。
エレベータを降りるとすぐに店の入り口になっている。
そこには鏡張りの棚に高いお酒がいくつも飾ってあり、ワット数の大きい電球で照らされている。
鏡の相乗効果でとても明るくなり、隣にある熱帯魚が泳いでいる水槽と相まって高級な印象を与える作りになっているのだ。
明るい入り口を抜けると、少し照明が落とされた通路が続き、フロアとの境目あたりにキャッシャーがある。
キャッシャーから出てきた増田店長が爽やかな笑顔と優しい声で女の子へ挨拶をする。
「こんばんは。今日はありがとう。あれ、そんなに濡れちゃってどうしたの?外って結構雨が強いんだねぇ。ささ、どーぞ中に入って。今タオル持ってくるから。それでえーと、何さん?」
そういって海斗の方を向いて名前を確認する。
海斗はハッとした。まだ名前を聞いていなかった。
表情だけで知らない旨を伝えると、店長に半ばあきれたような顔をされた。