テキストサイズ

闇夜に輝く

第7章 営業前の一幕


すっかり機嫌が直った増田さんが新聞を置いて海斗へ話しかける。

「それより海斗、お前の強みは俺がわかってる。自分が思うようにやっていいんだからな」

「俺の強みですか。何なんでしょうね。っていうよりあるんですかね俺に」

「あるよ。調子に乗らないところ。感情を殺せるところはお前の最大の強みだよ」

「無関心なだけかもしれないですけど」

変に評価をされては面倒だと思った海斗は、自嘲気味に冷めた発言をしたが、増田さんはそんな海斗の様子をじっと見つめた。
それでも海斗が胡乱げな眼差しでいると、増田さんは身体を海斗の方へ向け、更に目力を強める。

「いいか、お前は遅刻もしないし掃除も手を抜かないし、ポイント表の作成に関しても間違いがない。客への対応もそつなくこなしている。仕事に無関心な奴がそこまできっちり出来るとは俺は思えない。あと、俺やキャストに褒められても調子に乗らないし、今回のスカウトに関しても舞い上がっている感じもないしな」

「いや、店長や優矢君みたいな振る舞いが出来ないのは自分でもわかってるんで。何の取り柄も無い自分には誰にでも出来る事をこなしていくことぐらいしか出来ないですから」

淡々と返す海斗の様子とは対象的に少し含み笑いの増田さん。

「本当にお前は自分の気持ちを隠すのがうまいな。つまらない人間を演じてラクをしようとしてるんじゃないのか?」

そういったあと、増田さんが海斗の肩に手をかける。

「でもな、どんなにお前がドライな人間を演じようとも俺にはそうは映らない。お前のこれからが俺は楽しみでしょうがないんだよ」

この人にはかなわない。そう思った。
頑張れとも期待してるとも言わず、ただ楽しみにしてると言う。
海斗は普段あまり人の言葉が心に響かないと自覚している。
だたこの人の言葉は少しだけ心にじんわりと広がるものを感じた。

「あとは、喜怒哀楽が演技できれば一人前だな」

増田店長は独り言のようにポツリとそういうとまた新聞を手に取り読み始めた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ