闇夜に輝く
第44章 幕間 想い
そして筑波海斗という黒服にもそれが当てはまった。
自分が与えた軽いアドバイスを深く考え、そこから新たなアイデアを生み出す。
先日の美香との会話が思い出される。
着物の着付けをする為に他のキャストより随分と早く出勤してきた美香と更衣室でたまたま話をした。
「美香ぁ、こんなに早く出勤させて悪いな。無理してないか?」
「ふふふ、大丈夫よ。うちの子も10歳になったしね」
「そっか。もうそんな大きくなったんだ。それにしても、美香は一段と色っぽくなったな」
「そうやって褒めてくれるの初めてね。不思議な感じ。あんなに褒めてもらいたくてしょうがなかった時は全然褒めてくれなかったのに」
「何だ?今は違うのかよ」
「そうねぇ。今は海斗くんの言葉しか心まで響かないかもねぇ」
「何だ?海斗に惚れたのか?旦那が怒るぞ」
「ふふふ、私ね、ずっと女の華を咲かせてると思ってた。でも違ったの。それをあの子はちゃんと見抜いてくれた。今までそんなボーイさんはいなかったわ。だけど遅すぎよね。きっと私は最後の散り花。きっと長くは続かないの。桜吹雪は一瞬。だから今はあの子に頼まれれば何でもするわ」
そう言って着物を手に取り満足げに笑う美香。
おもむろに増田の胸に寄りかかる。
「貴方は綺麗な花の蕾を計画通り完璧に咲かせる天才よ。そしてその輝きを寿命が尽きるまで世話し続けるの。でも海斗くんはどんな花もその花らしく咲かせるわ。でもあの子の足りないところは花はいずれ枯れるって事を知らないところ。永遠に咲き続ける花なんて無いのにね。だから私の役割はそこだと思うことにしたの。ふふっ、花を育てるって楽しいね」
美香が独り言のようにそう言った後、離れる。
そしてまた、着物を並べてこちらを向く。
「私の着替え見ていくの?」
「おっと、ごめん。押し倒しちゃう前に戻らないとな」