闇夜に輝く
第45章 闇夜に輝く夜の蝶
「3月末で理子が退店する」
珍しく、ボーイ全員を集めた営業前ミーティングで増田店長は通常の業務連絡と何ら変わらないテンションのまま、その事実を知らせた。
海斗を含めて固まったままのボーイ達を尻目に増田さんはタバコに火をつける。
大きく煙を吐き出すと、
「さて、今後についてどうするか。取り敢えず、理子の指名客は他のキャストに引き継がなくてはならない」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
ミーティングを続けようとした増田さんを坂東さんが慌てて止める。
「いつから…。いつから知ってたんですか?俺は何も聞いてないですよ」
坂東さんは呆然とした表情で増田さんを見る。
「夏頃だな。俺はずっと引きとめには動いていた。でも理子は大学卒業と同時にこの世界から足を洗う。すでに夏頃には某商社に内定を決めていた」
「そんな…」
ガックリと肩を落とす坂東さん。
しかし海斗は予感していた。
理子さんは夜の世界でしか輝けない人ではない。そして他のキャストと馴れ合わない。
理子さんの中ではこの世界も人生における通過点でしかないのかもしれない。
今思えば夏のバーベキューの時もずっと増田さんと理子さんが話し合っていたのを思い出す。
増田さんが冷静に話しているのも、あの頃から話し合いを続けていたからかもしれない。
「坂東、キャストは永遠に在籍する訳じゃない。それは理子に限らずな。あいつの人生はあいつのものだ。俺らは送り出してやる事しか出来ない」
「それはわかっています。けど、理子はウチのナンバー1です。それも2年間で一度もトップから落ちた事はないんです。言わば店の顔です。俺はあの子がウチの店のブランドをここまで引き上げたと思っています。それに代わるキャストが俺には想像がつきません。店の雰囲気は確実に変わってしまいます」
「そうだな。だが、また新しいニューアクトレスが始まる事も事実だ。一つの大きな波が終わる。しかし、次の波が必ず来る。それを確実に捉えるんだ。その為に何が出来るかを考えろ」
増田さんは完全に切り替えていた。
そして不敵な笑みが揺るぎない自信を感じさせる。それはどこか活き活きとした表情にも見えた。