闇夜に輝く
第55章 泥沼の先に
「頭を上げてください」
海斗はあふれ出る感情を悟られないようになるべく冷静を保とうとする。
「俺が楽な方に逃げた付け回しを続けたせいで、坂東さんにこんな思いをさせてしましました。本当に申し訳ありません」
海斗は立ち上がり、深々と坂東さんに謝罪した。
その言葉に坂東さんが首を横に振って応える。
「いや、海斗なりに楓の事を考えてくれてたのは分かっている。けどお前は優しすぎるからなぁ。楓がその優しさに付けあがって自分の都合のいいように振舞ってしまっただけなんだよ。本来なら軌道修正するのは担当である俺の役割だった。けどな、俺が厳しく言ってもただ反発されるだけになってしまった。まぁ、楓と俺は家族みたいな感じだし、楓が俺にどんな態度を取ろうとも関係が変わらないとお互いが確信してしまっている。確かにこれでは仕事にならないよな。山田、海斗、楓の事、頼むな」
頭を掻きながら、照れくさそうにそう言う坂東さんは、楓さんの兄にしか見えなかった。