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20年 あなたと歩いた時間

第9章 32歳

「十四年ぶり?」
「そう。一年に二回くらいしか帰ってなかったからね。帰る度に変わっちゃって、正直もう地元って感覚が薄れてる」
「…あの公園、なくなったよ」

要がぼそっとつぶやいた。

「あのあたり、全壊家屋が多かったろ。あの公園を使う子どもが減ってさ、マンションが建つんだって」
「そう…」

公園を囲むように桜の木が植えられ、
春はお花見をした。
夏は話し声すら聞き取りにくいほど、
蝉が鳴き止まなかった。
秋は落ち葉を投げ合って、
冬は遮るものが何もなくて、
寒い寒いと言いながらみんなで笑った。
あの公園に、私達の十代のほとんどが
あった。
誰かが落ち込めば慰め、
喜びを分かち合い、
悩みを打ち明け、そして想いを伝えた。

流星のことが、好き。

ありったけの勇気を振り絞って
告白したのに、流星はさらっと言った。

( …なんだ、そんなこと? )

でもその後、真剣な顔をして言ってくれた。

(おれも、ずっとのぞみと一緒にいたい)

あの公園、もうないんだ…

「広輝、入学祝い何がいい?」

信号待ちで、要が振り返って
後部座席の広輝に聞いた。

「あ、寝てる」

要は、そのまま視線を助手席の私に移して、
笑った。

「流星にそっくりだな」

振り返ると、そこには
春の午後の日差しを浴びて
幸せそうに眠る姿があった。

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