
20年 あなたと歩いた時間
第9章 32歳
お正月以来、三ヶ月ぶりの真島家は
外壁が塗り替えられ別の家のように
なっていた。
「リフォーム、先週終わったよ。早く入ってごらん」
父はもうすぐ六十歳になる。
白髪や皺が目立つようになったその顔は
うれしそうだ。
中に入ると、キッチンやお風呂まで
すっかり変わっていた。
「お父さん…良かったの?こんなに変えちゃって」
「母さんだってきれいな家の方が喜ぶさ。それに」
父はリビングに運び込まれた段ボールを
ひとつ開けて言った。
「せっかくのぞみと広輝が帰ってきたんだ。お父さんのできることはしたいさ」
要の車に積んできた細々したものを
運び終えると、引っ越し業者も帰って行った。
新しくなったキッチンでお茶を入れて、
四人で他愛ない話をしていると、
ふと広輝が自転車で街を走りたいと
言い出して出ていってしまった。
父もそれに付き合うと言って
広輝のあとを追った。
「おじさん、うれしそうだな」
「うん。帰ってきてよかった」
ダイニングテーブルに要と二人で並んで、
お茶を飲みながら話していると、
そうだ、と要が思い出したように言った。
「会わせたい人ってさ、」
「ああ、さっき言ってた?」
「流星の叔母さん」
「…流星の?」
流星の家族は、あの地震でみんな亡くなった。
親戚の人が何人か事務的な手続きをして
どこか遠くでお葬式をあげたと聞いた。
とにかくあの地震で何もかも
なくなってしまった流星との繋がりは、
今日までひとつも私達の耳に入ることはなかった。
外壁が塗り替えられ別の家のように
なっていた。
「リフォーム、先週終わったよ。早く入ってごらん」
父はもうすぐ六十歳になる。
白髪や皺が目立つようになったその顔は
うれしそうだ。
中に入ると、キッチンやお風呂まで
すっかり変わっていた。
「お父さん…良かったの?こんなに変えちゃって」
「母さんだってきれいな家の方が喜ぶさ。それに」
父はリビングに運び込まれた段ボールを
ひとつ開けて言った。
「せっかくのぞみと広輝が帰ってきたんだ。お父さんのできることはしたいさ」
要の車に積んできた細々したものを
運び終えると、引っ越し業者も帰って行った。
新しくなったキッチンでお茶を入れて、
四人で他愛ない話をしていると、
ふと広輝が自転車で街を走りたいと
言い出して出ていってしまった。
父もそれに付き合うと言って
広輝のあとを追った。
「おじさん、うれしそうだな」
「うん。帰ってきてよかった」
ダイニングテーブルに要と二人で並んで、
お茶を飲みながら話していると、
そうだ、と要が思い出したように言った。
「会わせたい人ってさ、」
「ああ、さっき言ってた?」
「流星の叔母さん」
「…流星の?」
流星の家族は、あの地震でみんな亡くなった。
親戚の人が何人か事務的な手続きをして
どこか遠くでお葬式をあげたと聞いた。
とにかくあの地震で何もかも
なくなってしまった流星との繋がりは、
今日までひとつも私達の耳に入ることはなかった。
