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20年 あなたと歩いた時間

第9章 32歳

「お母さん。ぼく、絶対医者になるよ。お父さんの人生の続きを生きる」

(おれ絶対医者になるよ)
(この子に会いたいんだ…)

もう、どんな表情だったのか思い出せない。
でも声は覚えている。
その声よりも、まだ少し子どもの声で言う
広輝が、消えそうになる記憶に重なった。

「小野塚流星を忘れちゃいけないよ。お母さんが忘れたら、誰が思い出すの?」

そうだね。そうだね、広輝。

「お父さんの話、聞きたい?」
「聞きたい!」
「そうねえ…要のほうがよく知ってるかも」

じゃあ今から要んち行こう、と広輝は
私の手を引っ張って、今来た道と逆の方向に
歩き始める。
その手に、懐かしい温かみを感じた。

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