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20年 あなたと歩いた時間

第11章 手探りの日々

四月。僕は四年生に進級した。
四年生、というのはいわゆる高校一年生だ。
僕が通うのは中高一貫校。
三年生から四年生はクラス替えもなく
とくにいつもと変わらないまま
始業式が終わった。
授業のない日は、
いつもより長く部活ができる。
教室を飛び出して、窓から空を見上げる。
気温十八度、湿度四十パーセント
快晴無風、ってとこかな。
鞄を肩にかけて廊下を走り
陸上部の部室に向かう。
校舎から外に出た、その時。
例年よりも早く満開を迎えた桜が
散りながら風に舞い上がるのを
目にした瞬間、僕は既視感に襲われた。
圧倒的に鮮やかな画像が
脳に映し出される。
それは、夢や思い出のように
ぼんやりしたものではなく
まるで目の前に映画のスクリーンが
現れたようにクリアだ。
そこに、僕より一足先にトラックを
走るあいつがいる。
めちゃめちゃキレイなフォームで
百メートルを走る。
それはまるで
長い尾をひく流星のようだ。
そして、ゴールすると必ず寝転んで
空を見上げるんだ。ほら、今も。

「コウキ!」

背後からゆいの声が聞こえ、振り返る。
ゆいの声も聞こえるし、姿も見えるのに
僕は違う世界にいる。
このことを、まだ誰にも話したことはない。
話すと、消えてしまいそうな気がするのだ。

『あいつ』とのつながりが。

「どしたの?」

ゆいの切れ長の目が、僕をのぞきこんでいる。

「いや。何でもない。もう帰るのか?」

大きく頷き、ゆいは腕を振って
走る動作をして僕の顔を見た。

「流すだけな。明日、早速0時間目、あるな」

僕はなるべく区切ってはっきり話す。

「うん。帰って予習する」

ゆいは、色素の薄い瞳を
真っ直ぐ僕に向けて言った。

「じゃあな」
「ばいばい」

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