
20年 あなたと歩いた時間
第11章 手探りの日々
部活が休みの木曜日。
僕は、放課後数学科準備室に来るよう
担任に呼ばれた。
用件はおおよそ見当がついていて、
放課後までに進路を決めなければならない
という、何とも言えない状況にある。
いわゆる高校一年で、普通は
ここまで決める必要はないのだろう。
でもこの学校は、早くから大学受験対策を
することで、かなりの難関校に
毎年たくさんの生徒が送り込まれる。
教室の一番後ろの真ん中、
僕の席から見える範囲のやつらもみんな、
三年後には誰もが知っている大学に
合格しているのだろう。
そして更に何年後かには、日本の未来を背負う
駒のひとつになり、そして何十年後かには、
日本を動かしているかもしれない。
(何だよ、暗い顔して。空、見てみろよ)
流星の声が聞こえた。
細長く切り取られた空には、
雲ひとつなく、無性に走りたい気分に
襲われる。僕は腕時計をみた。
四時間目が終わって昼休みになるまで
あと二分。
チャイム、というものがないこの学校では
時計をみて日直が授業の終わりを告げる。
主体性を大切にする校風。
だったら僕は、あと二分ここに座っているより
その二分をグラウンドまでの移動時間に使う。
がたん、と椅子をならして立ち上がり、
後ろのドアから廊下に飛び出した。
真島くん!と、英語の先生が驚いた声を
上げた。
(おい、そこまでやれなんて言ってねーよ)
笑いを抑えた流星の声に、自分の声が重なる。
やってみたかったんだ、こういうの。
反抗期ってやつかもな。
グラウンドに出た瞬間、時間が来たのか
あちこちの教室からガタガタと椅子の音が
一斉に聞こえた。
僕はもう、百メートル先を目指して
走り初めている。
クレリックシャツの背中が大きく風を含んで
体の中を風が吹き抜けた。
「…サイコー」
思わず、言葉が出た。
多分、セックスより気持ちいいかも。
「だろうな」
目の前には、川辺先生が立っていた。
「わっ、…びびらせんなよ…」
「おまえ、最後まで授業受けてないだろ」
先生はベンチに座ると、隣に座れと
あごをしゃくった。
「ここでいいか、進路指導」
「あー…はい」
僕は、放課後数学科準備室に来るよう
担任に呼ばれた。
用件はおおよそ見当がついていて、
放課後までに進路を決めなければならない
という、何とも言えない状況にある。
いわゆる高校一年で、普通は
ここまで決める必要はないのだろう。
でもこの学校は、早くから大学受験対策を
することで、かなりの難関校に
毎年たくさんの生徒が送り込まれる。
教室の一番後ろの真ん中、
僕の席から見える範囲のやつらもみんな、
三年後には誰もが知っている大学に
合格しているのだろう。
そして更に何年後かには、日本の未来を背負う
駒のひとつになり、そして何十年後かには、
日本を動かしているかもしれない。
(何だよ、暗い顔して。空、見てみろよ)
流星の声が聞こえた。
細長く切り取られた空には、
雲ひとつなく、無性に走りたい気分に
襲われる。僕は腕時計をみた。
四時間目が終わって昼休みになるまで
あと二分。
チャイム、というものがないこの学校では
時計をみて日直が授業の終わりを告げる。
主体性を大切にする校風。
だったら僕は、あと二分ここに座っているより
その二分をグラウンドまでの移動時間に使う。
がたん、と椅子をならして立ち上がり、
後ろのドアから廊下に飛び出した。
真島くん!と、英語の先生が驚いた声を
上げた。
(おい、そこまでやれなんて言ってねーよ)
笑いを抑えた流星の声に、自分の声が重なる。
やってみたかったんだ、こういうの。
反抗期ってやつかもな。
グラウンドに出た瞬間、時間が来たのか
あちこちの教室からガタガタと椅子の音が
一斉に聞こえた。
僕はもう、百メートル先を目指して
走り初めている。
クレリックシャツの背中が大きく風を含んで
体の中を風が吹き抜けた。
「…サイコー」
思わず、言葉が出た。
多分、セックスより気持ちいいかも。
「だろうな」
目の前には、川辺先生が立っていた。
「わっ、…びびらせんなよ…」
「おまえ、最後まで授業受けてないだろ」
先生はベンチに座ると、隣に座れと
あごをしゃくった。
「ここでいいか、進路指導」
「あー…はい」
