
20年 あなたと歩いた時間
第11章 手探りの日々
だから、流星は大学を卒業したら、
外科医の叔母を頼ってアメリカに
行こうとしていた。
アメリカで研究をして、一流の医師に
なるって。
そこまで流星は未来を描いていたんだ。
ところがどこかの時点で、流星は自分の
命の限界を知ったんだ。
「知らなかった」
「君の母さんも、知らないだろうな」
「え…?」
そんなことどうして先生が知ってるんだ?
「こうして今、僕は担任として、流星の遺志を息子である君に伝えている。こうなることを、流星は知っていたんじゃないかな。自分ひとりでは、のぞみを救えないかもしれないことも」
まさか。そんな映画か小説みたいな話。
「流星は君をこの世に送り出すために、生きていたんだ。こころざし半ばでこの世を去らなければならないことを知っていて、色んな準備をしていた。その最たる例が、たった二十歳で父親になろうとしたことじゃないか」
二十歳で、まだ夢を叶える途中の流星が
避妊に失敗して僕ができたとは思えない。
意図的に、それは流星の『準備』だった
っていうのか?
「君はお父さんとお母さんから、素晴らしい知能を受け継いだ。これは大きな声では言えないけど、流星ものぞみも、IQは半端なく高かった。進路指導担当だから知り得た情報だ」
先生はそういうと、プルタブを引いた。
「人に話したのは初めてだ。こんな話、誰も信じてくれないだろうからね」
「十河教授は、確か今…」
「流星の通った大学で教鞭を執っているよな、確か」
「…今も、か」
「ってことだ。おまえなら、もっと上を目指せるんだろうけど。よし、進路指導終了。お疲れ!」
「ちょ、ちょ、川辺先生!」
「今から明日の抜き打ちテスト作るから。見るなよ」
「先生っ!今の話、母さんは、知ってるかな?」
「…真島。これ」
先生は、自分の机の一番下の引き出しから
手紙の束を取り出した。
すぐにわかった。
流星が、先生に宛てた手紙だ。
「迷ったけど、これおまえに渡すよ。これがきっと、今のおまえにとって一番必要な気がする。真島」
「はい…」
「母さんは関係ない。おまえと、父さんの問題だ」
先生はそれだけ言って部屋を出ていった。
それだけ?
いや、僕の人生を決定づけた。僕が進むべき道を煌々と照らした。
川辺昌幸。
恐るべし数学教師。
外科医の叔母を頼ってアメリカに
行こうとしていた。
アメリカで研究をして、一流の医師に
なるって。
そこまで流星は未来を描いていたんだ。
ところがどこかの時点で、流星は自分の
命の限界を知ったんだ。
「知らなかった」
「君の母さんも、知らないだろうな」
「え…?」
そんなことどうして先生が知ってるんだ?
「こうして今、僕は担任として、流星の遺志を息子である君に伝えている。こうなることを、流星は知っていたんじゃないかな。自分ひとりでは、のぞみを救えないかもしれないことも」
まさか。そんな映画か小説みたいな話。
「流星は君をこの世に送り出すために、生きていたんだ。こころざし半ばでこの世を去らなければならないことを知っていて、色んな準備をしていた。その最たる例が、たった二十歳で父親になろうとしたことじゃないか」
二十歳で、まだ夢を叶える途中の流星が
避妊に失敗して僕ができたとは思えない。
意図的に、それは流星の『準備』だった
っていうのか?
「君はお父さんとお母さんから、素晴らしい知能を受け継いだ。これは大きな声では言えないけど、流星ものぞみも、IQは半端なく高かった。進路指導担当だから知り得た情報だ」
先生はそういうと、プルタブを引いた。
「人に話したのは初めてだ。こんな話、誰も信じてくれないだろうからね」
「十河教授は、確か今…」
「流星の通った大学で教鞭を執っているよな、確か」
「…今も、か」
「ってことだ。おまえなら、もっと上を目指せるんだろうけど。よし、進路指導終了。お疲れ!」
「ちょ、ちょ、川辺先生!」
「今から明日の抜き打ちテスト作るから。見るなよ」
「先生っ!今の話、母さんは、知ってるかな?」
「…真島。これ」
先生は、自分の机の一番下の引き出しから
手紙の束を取り出した。
すぐにわかった。
流星が、先生に宛てた手紙だ。
「迷ったけど、これおまえに渡すよ。これがきっと、今のおまえにとって一番必要な気がする。真島」
「はい…」
「母さんは関係ない。おまえと、父さんの問題だ」
先生はそれだけ言って部屋を出ていった。
それだけ?
いや、僕の人生を決定づけた。僕が進むべき道を煌々と照らした。
川辺昌幸。
恐るべし数学教師。
