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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

言い淀むことなく、まっすぐ僕を
見据えているのぞみに、
僕は足がすうっと冷たくなる感覚をおぼえた。
のぞみは、真緒のように躊躇うことなく
意見することはないけれど、
芯の強い性格だから本当に言いたいことは
どんな局面であっても言う。
そんなのぞみを知っているから、
僕は覚悟をした。
きっと、最近の僕の言動に相当する制裁を
受けるんだ…と。
いや、大袈裟だけどそれくらい、
のぞみが本気になると怖いのを
僕は知っていた。
風が吹いて、高い空にうろこ雲が流れた。
のぞみの背後から射す西日が、
その表情に影を落とす。
僕は、何を言われようと
のぞみの声を聞きたくて、
その距離を縮めた。
もっと、のぞみの側にいたくて。
でも、さくらの花びらの唇からこぼれた言葉は
ずっと僕が聞きたかった言葉…

「ずっと、私のそばにいてくれる?」

…だから。
こんな瞬間があるから、
僕は生きていたいと思うんだ。
どんなに投げ出したい出来事にぶつかっても
こんなにいとおしい瞬間があるから。

「…なんだ、そんなこと?」

僕は、全然気のきいたことを言えなかった。
まさか、そんなことを言われるとは
思っていなかったから。
でも、君の前では
いつもかっこいい小野塚流星でいたくて。
君の、ヒーローでいたくて。
僕の腕の中で余るほどののぞみは、
やわらかくて、温かだった。
僕の胸に耳をあてて、君は言った。

「流星が、生きてる」

だから。僕は自分の命を、
大切なのぞみの未来を、
あきらめたくないんだ…。
それなのに、僕は自分の遠い未来を描くことが
できない。
不思議なほど、将来を想像することが
できずにいた。
いつまでも、のぞみを離せないでいた。

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