
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
「おはよ、流星」
「…はよ」
「今日バイト?」
「いや、今日はないよ」
いつの間にか、蝉の声も聞こえなくなった。
文化祭に向けて、校内の至る場所に作りかけの
看板やその道具が散らばっていて、
グラウンドからは運動部の朝練の声が
聞こえる。
靴箱の、スチールの扉を勢いよく閉める音が
あちこちで響いて、誰かが誰かを呼んでいる。
自転車のブレーキ音も、挨拶を交わす声も、
全部、消えていく。
いつもの朝、いつもの登校風景、
いつもの会話。なのに何か違う。
何か、どころではない。全てが違う。
こんな気持ちになっていることを要や真緒に
知られたら、一体どれだけからかわれるか。
「流星、これ」
「あ…うん」
「じゃあね、また帰り」
のぞみは複雑な折り方をした手紙を
僕に渡して、階段を上がっていった。
それを素早く胸ポケットにしまい、
僕は反対側の校舎に向かった。
何もない振りをして教室に入り、
クラスのやつらに声をかけ、一日が始まる。
16歳の、日常。
昨日。
思わずのぞみを抱きしめた。
やわらかくて、温かくて、花のような香りが
した。
思っていたよりもずっと細くて、
のぞみは女の子なんだと再認識した。
でもさらさらと冷たい髪は子どもの頃から
変わっていなくて、そんなのぞみを今までとは
違う感情を持って抱きしめていることに
複雑な心境だったことも確かだ。
さっきの手紙をポケットから出して、
机の下に隠すようにして読んだ。
見慣れた、のぞみのきれいな文字。
「…はよ」
「今日バイト?」
「いや、今日はないよ」
いつの間にか、蝉の声も聞こえなくなった。
文化祭に向けて、校内の至る場所に作りかけの
看板やその道具が散らばっていて、
グラウンドからは運動部の朝練の声が
聞こえる。
靴箱の、スチールの扉を勢いよく閉める音が
あちこちで響いて、誰かが誰かを呼んでいる。
自転車のブレーキ音も、挨拶を交わす声も、
全部、消えていく。
いつもの朝、いつもの登校風景、
いつもの会話。なのに何か違う。
何か、どころではない。全てが違う。
こんな気持ちになっていることを要や真緒に
知られたら、一体どれだけからかわれるか。
「流星、これ」
「あ…うん」
「じゃあね、また帰り」
のぞみは複雑な折り方をした手紙を
僕に渡して、階段を上がっていった。
それを素早く胸ポケットにしまい、
僕は反対側の校舎に向かった。
何もない振りをして教室に入り、
クラスのやつらに声をかけ、一日が始まる。
16歳の、日常。
昨日。
思わずのぞみを抱きしめた。
やわらかくて、温かくて、花のような香りが
した。
思っていたよりもずっと細くて、
のぞみは女の子なんだと再認識した。
でもさらさらと冷たい髪は子どもの頃から
変わっていなくて、そんなのぞみを今までとは
違う感情を持って抱きしめていることに
複雑な心境だったことも確かだ。
さっきの手紙をポケットから出して、
机の下に隠すようにして読んだ。
見慣れた、のぞみのきれいな文字。
