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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

『いい天気だな』

ノートのはしを小さく破り、そう書いて
のぞみの目の前においた。

「?」

その紙切れを開いてから、のぞみは空を
見上げた。
少し笑って、また目の前の問題集に意識を
戻した。
僕の左側にいるのぞみは、顔にかかる髪を
耳にかけて真面目に勉強している。
僕もしばらくは数学の問題を解いていたが、
ずっと隣にいるのぞみが気になって
仕方がなかった。
自分でもわからないけれど、最近、違う。

『何か飲む?』

ノートに書いて見せると、のぞみは、
いらないと首を横に振った。
僕はひとり、図書館の外に出た。
外は寒いけれどよく晴れて、風もない。
勉強しなければならないのに、
今日はしたくない。
僕はホットの缶コーヒーのボタンを押した。

「流星?何やってんの?」

要が自転車に乗って近づいてきた。
真緒はいない。

「…やり場のない欲求をコーヒーと共に流し込んでるとこ」

自転車をとめて、要が隣に座ってきた。
ベンチから投げ出す脚が、長い。

「おまえ、溜まってんだろ」
「だったら何だよ」
「やっぱそうなんだ」

要が自販機のボタンを押しながら、笑った。

「隣で好きな女が髪を耳にかけたりしてて、何とも思わないやつがいたらおれは誉めてやりたいよ」

僕は思わず本音をつぶやいた。そうなんだ
隣にいるのぞみが気になって
勉強にならないのだ。
少し前までは、そんなことなかったのに。

「した?」
「してねーよ」
「しろよ」
「しねーよ」

はあーっと息を吐いて、僕はうなだれた。
要の軽さがイライラする。

「もっと好きになるぞ、したら」
「え!まさかおまえ、真緒と!」

それは聞いていない。
のぞみからも聞いていない。

「じゃーな。せいぜい悩め」

要は振り返りもせずに、帰っていった。
…マジか…。要と真緒が…。いつの間にだよ。
僕は軽いショックを受けて、
缶をゴミ箱に投げ込んだ。

『理数科棟に一番近いC組になりたいから勉強頑張る』

図書館に戻ると、元の席にのぞみは
いなかった。
かわりに、僕のノートにそう書き残していた。
C組は普通科の一番上のクラスだ。

『自転車置き場で待ってる』

僕は荷物をかばんに突っ込んで、
自転車置き場に走った。

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