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20年 あなたと歩いた時間

第1章 14歳

「だから。何でそんなすぐに手を出すんだよ。話せばわかることだってあるだろ」
「…あいつらが話してわかるヤツだと思うか?だいたい、おまえみたいにものわかりのいい人間ばっかじゃねーだろ」

さっきからかれこれ一時間、
流星(りゅうせい)は要(かなめ)に
説教している。要は怒りが冷めない様子で
公園の遊具を蹴飛ばす。
錆び付いた鉄の柵が、ごん、と
鈍い音を立てた。
流星は花壇の縁に座って、
そんな要を眉をひそめて見上げた。
真緒はベンチの背にもたれ、
私は滑り台の梯子に不安定な格好で
座っている。
今日の昼休み、要がクラスの男子を
いきなり殴った。原因はいつものことだ。
私のお弁当が日の丸だったことを、
数人の男子がからかったのだ。

「私、全然気にしてないよ?今日はお父さんが寝坊しちゃって昨日も忙しくて買い物に行けなくて。朝起きたら冷蔵庫、空っぽだったんだ。それだけじゃん」

へらっと笑って言った。
私にはお母さんがいない。私が小学生の頃
病気で亡くなった。
以来お父さんと二人暮らしだ。

「のぞみ。そんな時はうちに電話してきな。私、のぞみの分もお弁当作ってあげるから」

真緒が私の目の前に来て言った。

「本当に?!真緒のお弁当いつもおいしそうだもんね」

長い髪をひとつに束ねて、
切れ長の瞳をさらに鋭くして続けた。

「その前に、自分でお弁当作る練習しなさい」
「あ、そうだよね…」

私が梯子からぴょんっと飛び降りると、
他の三人は笑っていた。
流星も、要も、真緒も。
私はそれだけで明日も明るく
元気に過ごせる気がした。

「あ!流れ星!」

太陽が沈み、濃くなり始めた空に
一筋の光が走った。願いごとっ!

いつまでも四人一緒にいられますように…
いつまでも四人一緒に…

「あーあ…三回言えなかった…」
「すぐに消えちゃったな」

へへ、っと笑って隣を見ると、
いつもよりも少し高い場所に
流星の顔があった。
流星はポケットに両手を突っ込んだまま、
見えなくなった流れ星の跡を探していた。

「また、身長伸びた?」

小学校を卒業するまでずっと、
四人の中で一番小さかった流星を
思い出していた。

「…かもな。地面が遠くなった」

夕日に照らされた横顔に、
心臓がいつもと違うリズムを刻む。
流星がぎゅっと私の右手を握った。


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